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第4話 街の裏路地に咲く、毒々しい赤い花

مؤلف: 日蔭スミレ
last update تاريخ النشر: 2025-11-18 09:30:50

 ヨハンと同じ焦げ茶色の髪に濃厚な琥珀色の瞳。髪はふんわりとボリュームのある癖毛だが、それが妙に小さな顔を際立たせて綺麗だとは思う。

 だが、どうにも所作一つ一つが下品なことで虫唾が走る。

 イルゼはリンダと目を合わせぬように、煮えたぎる鍋を見つめた。

「鶏の処刑人の朝は早いのね。どう景気は良いかしら? そういえば、私さぁ今月のアレを貰ってないわ……」

 リンダの言葉にイルゼは黙りとしたまま、心底嫌そうに彼女に目をやった。

「今月の何」

「何って、馬鹿ね。私の家族費よ?」

 家族費。つまり、養鶏業で稼いだ収入のうちの三分の一を寄越せとのことだ。

 ……ここで働いてもいない癖にこうしてリンダは度々金をせびりに来るのである。

 ヨハンが何度も咎めているが、どうにも実の妹という部分で甘い部分もあるのだろう。泣いて縋られてしまうとヨハンも叶わぬようで、毎度仕方なしに金を渡す。

 だが、これで味をしめたのか、リンダは毎月のように請求に来るのだった。

 当たり前のように、イルゼからしたら腑に落ちない。

 それに義姉だって仕事をしているはずだ。それも養鶏業よりも確実に金になる仕事をしているのに……。

 リンダは街の中心地とも呼べるひばり横町の酒場で働いている。

 それも住み込みだ。酒場とはいえ、ただのウエイトレスでない。娼婦まがいなことをして金を巻き上げているのだ。

 ヨハンはこれを知らない。少し前、ヨハンが熱を出した時、仕方なしにイルゼが代わりに早朝の街に配達に出掛けた際、通りかかったひばり横町の裏路地で彼女が男と口付けを交わす姿を見て悟ったことだった。

 真っ赤なルージュを引き、派手な化粧をして裸同然のみすぼらしい格好で男と乳繰り合っていたのだ。首筋には、真っ赤な赤い花。それは男女の交わりを彷彿させるもので、きと売春は黒だろうと思った。

 リンダはイルゼの視線にすぐ気がついた。

 それも微塵も動じず、乳繰り合っていた男に強姦まがいなことを指示して脅しにかけてきたのだ。

『兄さんに言ってみなさいよ。男たちに頼んで、あんたの四肢を切り落として売り飛ばしてやるわ。あんたは根暗だろうと殺人鬼の娘だろうと顔だけは良いからね。鶏の処刑人を抱きたいって物好きが精液便器として可愛がってくれるんじゃないかしら?』

 その時は、身体をまさぐられただけで純潔を奪われずに済んだが、義姉のことならば言った通りのことをやりかねないと思った。

 ……元々やや傲慢な気質ではあるが、それでも明るい義姉だった。

 しかし、父の事件後から途端に冷たくなり、自分を憎み嫌うようになったのである。

『あんたの父親が居なければママは死なずに済んだ』

『この疫病神』

『死んでしまえ』

 髪を掴まれ、そんなヒステリックな罵声を何度も浴びた。

 井戸に突き落とされそうになるなど、殺されるのではないのかと思えたことだってある。

 さすがに報復が恐ろしくなり、自警団はおろかヨハンにだって言えやしなかった。

 そもそもだ、自警団に関しては自分があの殺人犯の娘だと分かっているので、言ったところで信用されないとイルゼも考えずとも分かっていた。

「……義姉ねえさん。家族費なんて貰わなくても稼ぎはあるでしょ」

 尤もなことを言った途端だった。リンダはイルゼの長い髪に掴みかかったのである。

 引き攣るような痛みにイルゼは顔をしかめるが、リンダは構わず顔を近づけて、鼻を鳴らす。

「はぁ? クズの分際で私に口答えするの? と、いうのか……そのディアンドル。私の置いていったやつよね? どうしてあんたがそれを着てるの? 鶏臭くてもう着られないわ。どういう事よ?」

「……義姉ねえさんが、もう要らないから置いて行ったって義兄にいさんから聞いた。不要だから着たって良いって、義兄にいさんが言ってただけで……だって」

「私はそう言ってないでしょう!」

 はん。と鼻を大きく鳴らし、リンダはイルゼを突き飛ばす。

 イルゼがよろけたと同時だった。腰に蹴りを入れられ、イルゼが地面に倒れると、その途端──背にズシリと重みを感じた。

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  • 罪の鎖に繋がれた没落令嬢は猟奇領主の執愛に溺れる~ローレライの夜想曲~   第90話 不器用でいびつな私たち

     義姉からまさかそんなことを言われるなんて思いもしなかった。  だが、どう返事したら良いか分からない。今更という部分もあるし、こちらだって理解が追いつかない。当然のように、イルゼは返信を書くことなんてできなかった。 しかし、この事態にイルゼは余計に形見の狭さを感じ始めていた。  先行きだって不安でしかない。  義兄と営んできた養鶏業も廃業だ。これから、いよいよ一人でどう生きていけば良いか考えると、焦燥が募るものだった。  もし、働くにしても領地を出て行くべきだろう。  この領地で義兄に監禁され、厭らしいことをされてきた殺人犯の娘という最悪な印象を持たれてしまうのはどことなく想像できたのだから……。 だが、これに対してヘルゲは「生きやすいに越したことはないでしょう」なんてやんわりと微笑んだ。「うちの旦那様もそうだしイルゼさんもね、〝不器用〟なんすよ。似た者同士だなって思います。たとえ本人は腑に落ちないとしても、周囲の評価だ待遇だの、そのまま受け入れたって悪くないと思いますよ?」 ──自分に厳しすぎなんすよ。  なんて、ザシャにも言われて、イルゼは目から鱗が落ちるようだった。  確かに、他人とそこまで関わってこなかったからこそ、分からなかったことだ。  厚意を受け入れること、甘えること。これまでの自分はなかったものだ。  この城に来て、人と触れ合い、学んだことは多すぎる。  それに、こんな風に言ってくれるのは心からありがたい。イルゼは、使用人たちに深く礼を言った。 そしてヘルゲは「今だからもう言えますが」……と、更なる暴露をイルゼにした。 何やらヘルゲはリンダと既に形式上で婚姻関係を結んでいるらしい。  娼婦の義姉を買う──つまりは、結婚していたということらしい。  だがその実態は……〝ヘルゲとザシャ双方の妻〟という扱いだそう。「法的に認められてませんが、兄弟共有の妻ということになりました。僕ら性格似てないですが、好みは似ていて。もう二夫一妻で良いのでは? ってことになりまして」 借金を肩代わりした他、買われた

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